第一話
「先生、今日も持ってきました!」
生徒達が持って来たのはスタンプカード。
これに一日一個、先生にスタンプを押してもらうことで何か凄いことが起きる……と生徒達に信じ込ませている。
処女の無い世界に、これ以上求めるものなどあるだろうか。
そうして先生はカレーを食す。うん、辛い。
先生は汲んだ水を一杯飲み干すと、小さな溜息を一つ吐いた。
南斗学園は今年で創立五〇年を迎える。その記念に、校長の南晴斗は盛大なイベントを予定していた。
自身の陵墓の建造である。
絶対的な権力と暴力によって小学生でも豆腐の角で死なないよう教育した南斗学園の生徒達には黙っている。
「ふふふ……私の聖☆南斗×字陵が完成した暁には、共に全銀河の処女を生き埋めにし、ついでに五五から七八の熟女共も生き埋めにしてくれるわ」
そしてこのドヤ顔である。
生徒たちに寄越しているスタンプカードには、勿論何の意味も、ない。
二〇個集まっても、何もない。生徒の満足感のために導入したシステムだ。
「あなた、カレーですよ」
妻の勇凛悪である。処女ではない。開発済みだ。ちなみにキリスト教徒。
「あなた、止めてください。そんなプロジェクト、生徒に失礼です。生徒達はもっと過酷な重労働を望んでいるはずよ」
あんなにも美しかった妻の面影は、今は見る影もない。
妻のカレーを、一口掬って口に入れる。うん、辛……くはない。絶妙。
その時だった。空から、ギャルのぱんてぃが降ってきたのである。
そのぱんてぃは、晴斗の顔面へ天使の羽のように舞い降りた。
この香り……処女! そう確信した晴斗はそのぱんてぃをジップロックに入れ、校長室の金庫に収めた。
この僅か七・一二秒の出来事を、勇凛悪が見逃すはずが無かった。
無論、NTR属性も開発済みの勇凛悪である。死角はない。
自らの夫が自分ではない女――それも処女――のぱんてぃを斯くも大事そうに保管したのを見せつけられ、しかし彼女が浮かべたのは憤怒ではなく恍惚の表情だった。
そんな妻の様子を見て晴斗は下衆な笑みを顔に広げた。そのままそっと勇凛悪の頬を撫でる。
直後、嬌声と共に絶頂。気絶し床に倒れ伏す勇凛悪。
開発された勇凛悪の肉体は常人の数十倍の感度を持つ。実際、彼女が気絶することはよくあった。
「ふ……愛い女よ」
愛おしげに勇凛悪の頭を撫でる晴斗。彼が触れる度に彼女の体がビクンビクンと痙攣する。そろそろ生命活動に支障を来す頃だ。
晴斗は青空を眺めながら、先刻のぱんてぃの持ち主に思いを馳せた。
結論から言って、件の持ち主は彼のすぐ近くにいた。
晴斗のいる校長室の直上には、当然ながら屋上が存在する。
その上に、怪しげな人影があった。それが件の持ち主であった。
果たして、その人影は女ではなかった。男である。
藍色に染め上げられた柔道着に物々しい手甲。太く筋肉質な二の腕に掘られた桜吹雪の刺青は、遠山の金さんを思わせる。
彼はノンケであるため、実際処女だ。故に晴斗は読み違えた。
――アレはギャルのぱんてぃではなかったのだ。
遠山の金さんめいたその男は静かに合掌すると、口の中で小さく呟く。
「……ナムアミダブツ」
男の姿が煙のように掻き消えた直後だった。
轟音と共に、校長室が閃光を放って消し飛んだ。爆発である。
ぱんてぃは男が放ったトラップ。超小型の核爆弾だったのだ。
晴斗と勇凛悪の生死など、確認するまでも無かった。